僕は雲になりたい
笑顔
僕はこの先彼女とどうなるのだろうか。いや、どうなりたいのだろう。彼女は僕に対して真っ直ぐな想いを伝えてくれていることに間違いはない。僕は彼女と恋人になりたいのだろうか。自分でも分からない。
僕達は120分間他愛もない話をして自分達の順番を待ち、遂にジェットコースターの席に座った。
「ワクワクするね」
彼女は興奮を抑えきれないといった感じでそう言った。
「このジェットコースター、施設の中を回るんだけど、照明がほとんどなくて視界が真っ暗になるんだよね」
「え?なにそれ」
「いやいやなにそれって、そういうアトラクションだよこれは」
「聞いてないよそんなの」
彼女は急に怖くなったのか、顔が強張っている。
「楽しいから大丈夫だよ」
「視界が真っ暗とかそんなの何が楽しいの?これやっぱやめよう。降りよう」
「さぁ!そろそろ出発だ!」
「人の話を聞かないのはいけないことだって幼稚園で習わなかった?」
「その台詞そっくりそのまま宮澤さんに返すよ」
彼女に仕返しをした気分になって、少し嬉しかった。
彼女がそれでも諦めがつかないらしく、文句を言おうとした瞬間に、ジェットコースターのスターターを務めるスタッフが合図を出した。
「行ってらっしゃい!」
「ちょっと!行きたくない!私は行きたくない!」
彼女の思いは届かずジェットコースターが動き出した。
ジェットコースターは、ゆっくり坂を登っていく。初っ端に急降下するためだろう。
「見えない!何も見えない!ここは誰⁉︎私はどこ⁉︎」
彼女は馬鹿である。
「これから落ちるよ」
「やだ!見えないのに落ちるとか無理!柴田どうにかして!」
「俺はスーパーマンか」
その後、ジェットコースターは急降下したり、回転したり、彼女に悲鳴を上げさせた。僕としては、ジェットコースターの楽しさと、彼女の悲鳴を隣で聞く楽しさが重なって最高の気分だった。
彼女がベンチで休憩したいというので、僕達はベンチに並んで座っていた。
「死ぬかと思った」
「死なないよ。しかも普通のジェットコースターじゃん。ただ視界が暗いだけで」
「視界が暗いってところがだめなんです」
「あれ?初めて来たの?ここのテーマパーク」
視界が暗くなるのを知らない彼女を僕は不思議に思っていたので聞いた。
「そもそもジェットコースター初めての上に真っ暗だったから本当に死ぬかと思った」
「え?乗ったことないの?」
驚きだ。地方の田舎出身かどうかは分からないが、少なくとも高校一年生からは地方ではない。なのに一度も乗ったことないとはどういうことだろう。
「遊園地行く機会ないし」
「いやあるだろ。小さい頃なら家族とかと行く人もいるし、俺らくらいになると友達とかカップルとかで行くじゃん」
「彼氏出来た事ないし、友達もそこまで深い関係の友達はいないよ」
あまり聞いてはいけない事だっただろうか。雰囲気が悪くなるのは面倒だ。僕は何とか明るく返そうと思い、出てきた言葉が、「じゃー俺と色々行こうよ」だった。
「え?いいの?」
しまった。やってしまった。場の空気を悪くしないようにしたつもりが、これではただデートに誘っているだけではないか。
「いや、よくないかな」
「まぁ冗談だよね。知ってる知ってる」
彼女は笑いながら言ったが、少なからず落胆したに違いない。だが、恋人になるとはっきりとしたものがない状態であまり期待を持たせるのもいかがなものだろうか。僕はそう考えた。
「柴田が私とデートしたいって思うような女になるからもう少し待っててほしい」
いつもの笑顔で、しかし真剣な眼差しで僕に訴えてきた。
僕は彼女の事を好きなのかは分からないが、彼女の笑顔は間違いなく好きだ。自然とこっちまで笑顔になってしまうような彼女の笑顔が僕は好きだ。
「俺はそんな待てるような人間じゃないよ」
「だからあと少しだって。もうちょっといい女になるから待っててよ」
「俺と釣り合う為とかそんな事考えてんの?」
「うん。そうだよ」
買い被りすぎだ。僕が彼女に釣り合わないだろう。僕は大した人間ではない。だが、彼女が隣にいれば少しは良い人間になれるのかもしれない。
「お前が俺に釣り合ってないとか本当に思ってんの?」
「思ってるよそりゃ。柴田みたいに友達多くないし、恋愛経験もないし、モテないし」
「俺も全然モテないし、友達も別に多いってわけでもないけどね」
「少なくとも私よりはモテるし、友達もいると思うよ」
彼女はそう言うと、またクスクス笑った。やっぱり彼女の笑顔が好きだ。
「俺はお前が笑ってるとすごい元気になるし、こっちまで笑えてくるからお前はすごいと思うよ」
「へー。じゃー柴田の前ではいつも笑顔でいるように心掛けるね」
「心掛けなくても俺がいるだけでお前笑顔じゃん」
彼女は、「うっ」というような、痛い所をつかれたといった顔をした。
「まぁお前はそのままでいいってことだよ」
僕は自分で言った言葉に少し恥ずかしくなって、ベンチから立ち上がった。
「このままで好きになってくれるの?」
彼女は目線を下にして、自分の足を眺めながら僕に問いかけてきた。
「知らん。もう休憩いいだろ。早く次行こ次」
彼女を急かしたが、立ち上がろうとしない。
僕は大きなため息をして、彼女の腕を掴んで言った。「好きだよ。好きだから早く次行こう」
言い終わると同時に彼女を無理矢理立たせて歩き出した。
僕達は120分間他愛もない話をして自分達の順番を待ち、遂にジェットコースターの席に座った。
「ワクワクするね」
彼女は興奮を抑えきれないといった感じでそう言った。
「このジェットコースター、施設の中を回るんだけど、照明がほとんどなくて視界が真っ暗になるんだよね」
「え?なにそれ」
「いやいやなにそれって、そういうアトラクションだよこれは」
「聞いてないよそんなの」
彼女は急に怖くなったのか、顔が強張っている。
「楽しいから大丈夫だよ」
「視界が真っ暗とかそんなの何が楽しいの?これやっぱやめよう。降りよう」
「さぁ!そろそろ出発だ!」
「人の話を聞かないのはいけないことだって幼稚園で習わなかった?」
「その台詞そっくりそのまま宮澤さんに返すよ」
彼女に仕返しをした気分になって、少し嬉しかった。
彼女がそれでも諦めがつかないらしく、文句を言おうとした瞬間に、ジェットコースターのスターターを務めるスタッフが合図を出した。
「行ってらっしゃい!」
「ちょっと!行きたくない!私は行きたくない!」
彼女の思いは届かずジェットコースターが動き出した。
ジェットコースターは、ゆっくり坂を登っていく。初っ端に急降下するためだろう。
「見えない!何も見えない!ここは誰⁉︎私はどこ⁉︎」
彼女は馬鹿である。
「これから落ちるよ」
「やだ!見えないのに落ちるとか無理!柴田どうにかして!」
「俺はスーパーマンか」
その後、ジェットコースターは急降下したり、回転したり、彼女に悲鳴を上げさせた。僕としては、ジェットコースターの楽しさと、彼女の悲鳴を隣で聞く楽しさが重なって最高の気分だった。
彼女がベンチで休憩したいというので、僕達はベンチに並んで座っていた。
「死ぬかと思った」
「死なないよ。しかも普通のジェットコースターじゃん。ただ視界が暗いだけで」
「視界が暗いってところがだめなんです」
「あれ?初めて来たの?ここのテーマパーク」
視界が暗くなるのを知らない彼女を僕は不思議に思っていたので聞いた。
「そもそもジェットコースター初めての上に真っ暗だったから本当に死ぬかと思った」
「え?乗ったことないの?」
驚きだ。地方の田舎出身かどうかは分からないが、少なくとも高校一年生からは地方ではない。なのに一度も乗ったことないとはどういうことだろう。
「遊園地行く機会ないし」
「いやあるだろ。小さい頃なら家族とかと行く人もいるし、俺らくらいになると友達とかカップルとかで行くじゃん」
「彼氏出来た事ないし、友達もそこまで深い関係の友達はいないよ」
あまり聞いてはいけない事だっただろうか。雰囲気が悪くなるのは面倒だ。僕は何とか明るく返そうと思い、出てきた言葉が、「じゃー俺と色々行こうよ」だった。
「え?いいの?」
しまった。やってしまった。場の空気を悪くしないようにしたつもりが、これではただデートに誘っているだけではないか。
「いや、よくないかな」
「まぁ冗談だよね。知ってる知ってる」
彼女は笑いながら言ったが、少なからず落胆したに違いない。だが、恋人になるとはっきりとしたものがない状態であまり期待を持たせるのもいかがなものだろうか。僕はそう考えた。
「柴田が私とデートしたいって思うような女になるからもう少し待っててほしい」
いつもの笑顔で、しかし真剣な眼差しで僕に訴えてきた。
僕は彼女の事を好きなのかは分からないが、彼女の笑顔は間違いなく好きだ。自然とこっちまで笑顔になってしまうような彼女の笑顔が僕は好きだ。
「俺はそんな待てるような人間じゃないよ」
「だからあと少しだって。もうちょっといい女になるから待っててよ」
「俺と釣り合う為とかそんな事考えてんの?」
「うん。そうだよ」
買い被りすぎだ。僕が彼女に釣り合わないだろう。僕は大した人間ではない。だが、彼女が隣にいれば少しは良い人間になれるのかもしれない。
「お前が俺に釣り合ってないとか本当に思ってんの?」
「思ってるよそりゃ。柴田みたいに友達多くないし、恋愛経験もないし、モテないし」
「俺も全然モテないし、友達も別に多いってわけでもないけどね」
「少なくとも私よりはモテるし、友達もいると思うよ」
彼女はそう言うと、またクスクス笑った。やっぱり彼女の笑顔が好きだ。
「俺はお前が笑ってるとすごい元気になるし、こっちまで笑えてくるからお前はすごいと思うよ」
「へー。じゃー柴田の前ではいつも笑顔でいるように心掛けるね」
「心掛けなくても俺がいるだけでお前笑顔じゃん」
彼女は、「うっ」というような、痛い所をつかれたといった顔をした。
「まぁお前はそのままでいいってことだよ」
僕は自分で言った言葉に少し恥ずかしくなって、ベンチから立ち上がった。
「このままで好きになってくれるの?」
彼女は目線を下にして、自分の足を眺めながら僕に問いかけてきた。
「知らん。もう休憩いいだろ。早く次行こ次」
彼女を急かしたが、立ち上がろうとしない。
僕は大きなため息をして、彼女の腕を掴んで言った。「好きだよ。好きだから早く次行こう」
言い終わると同時に彼女を無理矢理立たせて歩き出した。