Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「千紗子の百面相は、ものすごく可愛いな。」
 
 「あっ、雨宮さん!!」

 いつの間にか隣に雨宮がいた。しかもベッドの縁に腰かけている千紗子のすぐ側に立っている。
 千紗子は寝室には自分一人っきりだと思っていたから、思う存分思考に耽っていたのに、それを見られたことが気恥ずかしくて気まずい。

 (書斎で仕事をするって言ってたのに…いつのまに!?)

 「先に寝てていい、って言っておいただろ?」

 腰を屈ませて千紗子の顔に口元を寄せている雨宮の低い声と共に、吐息が千紗子の耳に当たる。
 その度に千紗子の肩がピクリと跳ねるのを、雨宮は気付いているはずなのに、そこは追及してこない。

 (絶対分かってやってるんだわ。)

 からかわれたと思った千紗子は気恥ずかしさも手伝って、雨宮を‟キッ”と上目使いに睨む。

 「可愛くなんて、ありません。」

 「ああ、その顔も可愛いな。千紗子は俺を誘惑してるの?」

 「ゆ、誘惑っ!?そんなことはしてません!!!」
 
 慌てる千紗子を見た雨宮は小さくクスリと笑う。

 「そうか?それは残念だな。でもそんなふうに千紗子の新しい顔を見る度に俺は嬉しくなるし、君をもっと知りたいと思う。」

 楽しげに微笑みながらそう口にする雨宮だが、からかっているふうではなく、彼の瞳は真っ直ぐ真摯に千紗子を見つめている。
 
 ジッと見つめられると、その瞳に吸い込まれてしまいそうになって、千紗子は慌てて彼の瞳から視線を逸らした。
 雨宮の視線が自分に向けられているのを感じながら、千紗子は無言で俯いていた。

 (私に可愛げがあったなら、婚約者によそ見をさせることなんてなかったはずだわ……。)

 千紗子の胸に、針が差したような痛みが走った。 
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