Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
翌朝、早く目覚めた千紗子の隣に雨宮はおらず、日課だというランニングに出ているようだった。
時計に目を遣ると、時刻は六時過ぎ。今日のシフトは遅番の千紗子にとってはまだ早すぎる起床だったけれど、遅出勤する前にやっておきたいことがいくつかあったので、千紗子は早々にベッドルームを出ることにした。
朝食と弁当の準備があらかた済んだ頃に、玄関扉の音が雨宮の帰宅を告げた。
廊下のドアを開けながら入って来た雨宮の額には汗の粒が光っている。
ここ数日でぐっと冷え込みが増して、冬の早朝はものすごく寒いはずなのに、そんな気配すら感じさせず、汗をかいても爽やかだ。
「おはようございます。おかえりなさい。」
「早いな、千紗子。おはよう、ただいま。」
声を掛けた千紗子に、雨宮はタオルで汗を拭きながら返事を返す。
「ああ、いい匂いだ。千紗子の作った朝食が待っていると思うと、ランニングもやる気が出るよ。」
キッチンに数歩足を進めた雨宮は、千紗子の手元を覗き込んだ。
「あっ、やった。今日も弁当には玉子焼きがあるんだな。」
千紗子の手元には昨日と同じランチパックがあり、今まさにそこにおかずを詰めているところだった。
「約束しましたから…。」
言いながら千紗子は手元の弁当を見た。
今日の弁当は、おにぎり、ピーマンの肉詰め、きんぴらごぼう、アスパラベーコン、そして雨宮のリクエスト通り玉子焼き、だ。おかずの隙間にはミニトマトも入っている。
ちなみに、千紗子は自分のお弁当は用意しなかった。
遅番の今日は、十一時半くらいに図書館に着けば十分間に合う。用事を済ませてから出勤するまでの間に、どこかで簡単に昼食を取れるように、ラップで包んだおにぎりだけを準備したのだ。
つまり、今作っているのは雨宮専用。
昨夜雨宮が『誰にも見られない』と約束をしてくれたことを疑ってはいないのだけど、万が一、億が一にでも誰かに見られた時の為に、千紗子は自分が作ったと絶対ばれないようにしたかったのだ。