Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「う~ん…、何度も続いたんだったら勘違いじゃないかもしれないわね……。千紗ちゃんは何か思い当たることはないの?」

 そう問われた時、千紗子の頭には一瞬裕也のことがよぎった。

 (でも裕也は平日はずっと仕事中だし、それに、私のことなんかもうどうでもいいみたいなことを言っていたし……)

 他に何も心当たりはなく、千紗子は頭を左右に振るしかない。

 「そっか…。う~ん、こんな時に限って雨宮さんは出張中だしなぁ。」

 美香の口から雨宮の名前が出た瞬間、千紗子の心臓が大きな音を立てた。

 「ど、どうして、雨宮さん、…なんですか?」

 「ん?なんとなく?」

 「なんとなくって……」

 千紗子は美香の発言に目を丸くした。

 「何となくは何となくよ。雨宮さんが居たら千紗ちゃんのことを頼めるのにな、と思っただけよ。つい最近もお世話になったんでしょ?全然事情を知らない人よりもよっぽど頼りになるじゃない?」

 平然とそう言ってのける美香の、動物の勘のようなものに、千紗子は内心感服していた。

 「でも、雨宮さんは出張中だから、今日は念のため私と帰ろう。千紗ちゃんは今どこに住んでる?前の彼のマンションに戻ってるの?」

 千紗子はこの時初めて、自分が誰にも居場所を伝えていないことに気が付いた。

 (職場にも住所の変更をしないといけないわ……)

 千紗子は雨宮の留守の間に、それを済ませてしまおうと心に誓う。

 業務終了後、タクシーで送るからと言って聞かない美香に押し切られた千紗子は、乗り込んだタクシーの中で、自分の住んでいるところを美香に説明することになったのだ。

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