Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
頭を下げたままの姿勢で裕也は言葉を続ける。
「こんなことで許して貰えるとは思ってはいないけど、でも、本当に馬鹿なことをしたと後悔してるんだ。済まなかった…千紗子。」
裕也に久々に『千紗子』と呼ばれた瞬間、千紗子は自分の胸の奥の、どこか柔らかい場所が萎んでいくのを感じた。
いつもそう呼んでくれるあの人が千紗子の脳裏に浮かんで、その声が頭の奥に響く。
キュッと縮まる心臓を感じながら、千紗子は目の前の元恋人に意識を集中させた。
「裕也…とりあえず頭を上げて。ね?」
周りの視線も心なしか気になって、千紗子は裕也に顔を上げてくれるように頼んだ。
ゆっくりと頭を上げた裕也に、千紗子はずっと気になっていたことを尋ねた。
「もしかして、裕也は何度か図書館に来てた?」
「ああ、営業で出た時に、何度か…俺、あの晩もショッピングモールでも、お前に酷いことばかりしたから……ちゃんと謝りたくて……」
裕也の視線はテーブルの上をさまよい、千紗子の目を見ようとしない。そのまま裕也は言葉を続けた。
「千紗…俺、お前の優しさに甘えてたんだ。お前とこれからも一緒にいたくてプロポーズしたのに、いつのまにかそのことを忘れて、つい間が差したんだ……。」
目の前の彼が、心の底から謝ってくれているのは千紗子にも分かっていた。一週間前までの自分なら、彼の謝罪を受け入れていたかもしれない。
(『一度だけなら』って許して、流されてそのまま結婚していたのかしら……)
そう考えた時、千紗子の背中に小さな震えが走った。