Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「あの女とは本気じゃなくて…もちろん誘惑に負けてしまった俺が悪いんだけど……でも、ずっと続けていた関係とかではないんだっ!もう千紗を裏切ったりしない。約束する。だから俺とやり直して欲しいっ!!」
彼は自分の言い訳ばかりを口にして、その実千紗子の気持ちには一切触れようとしない。
千紗子の唇がわなわなと震えた。
(私がどんなに傷付いたか、そんなことはきっとどうでもいいのね……)
グッと唇を噛みしめた。
その時、
『そんなに噛んだら傷になるぞ』
ここにはいない人の声が耳の奥でそう囁いた。
聞こえないはずの声に、千紗子の胸が切なく締め付けられる。
目の前の裕也は黙ったままの千紗子に、言い訳の言葉を連ね続けている。
千紗子はそれをどこか遠い瞳で見ていた。
きっとこのまま千紗子が口を噤んでいたらそのことにも気付かないのだろう。
心の中は怒りを通り越して何も感じない。画面の向こうで彼が何かを必死に説明しているだけだ。
(もう、私が何を言っても彼にとっては同じことかもしれない……)
このまま何も言わず、彼に別れを告げてここから立ち去ろう。
そんな考えが千紗子の頭を過った。