Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 千紗子のその言葉を聞いた途端、裕也は口を噤んだ。

 黙り込んだ裕也を見ながら、千紗子は一つ一つ丁寧に言葉を紡ぐ。

 「私も裕也に甘えてた。何も言わなくても私のことを分かってくれてるって信じてた。そう思い込んでたのは私の甘えだったんだと思う…だから裕也だけが悪いんじゃないの……」

 「だったら、千紗、」
 
 「でも、だからこそ、ごめんなさい。」

 そう言って頭を下げた千紗子に、裕也は言葉をなくした。

 「私、あの時まで裕也の気持ちを疑ったことなんてなかった。何も言わなくても私たちの間には信頼関係があるって思ってた。裕也がプロポーズしてくれて、このままずっと一緒に時を重ねて行くんだって、本当に幸せだったの……。」

 「千紗……。」

 「でも、あの夜、その幸せは終わったの……。すごく辛かった、自分でも驚くくらい絶望した。……私、きっともうあなたのことを信じることは出来ない。だから、ごめんなさい。あなたのところには戻れません。」

 きっぱりと言い切った千紗子の目を見た裕也は、がっくりとうなだれた。

 「次の日に会った時、俺があんなふうに意地を張って千紗子にきつく当たったからか?すぐに謝っていたら……」

 うなだれながら問いかけてくる裕也に、千紗子はハッキリと告げる。

 「ううん、違う。あの時もショックは受けたけど、でもやっぱりあの夜が私たちの終わりだったの。私は他の女性と肌を重ねたあなたとは、もう一緒にいられない……それがすごく辛かった……」

 「………そうか………」

 千紗子の言っている意味がやっと腑に落ちたのか、裕也はしばらくの間顔を伏せて黙っていた。

 「千紗の気持ちは、分かった。……俺がどんなに後悔しても時間は巻き戻らない…そういうことなんだな。」

 自分を納得させるように呟いた彼の言葉に、千紗子は小さく頷いた。

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