Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 裕也は千紗子の体を抱きしめた腕をすぐにほどくと、踵を返して出口に向かった。

 彼の後ろ姿を黙って見送った千紗子は、ふと自分の後ろにあるガラスの方を振り帰った。

 ―――目が合った。
 
 千紗子は自分の目を疑った。

 通りを挟んで自分と見つめあうその人は、雨宮だった。
 
 人波が途切れることのない往来で、彼は立ち止まったまま千紗子をじっと見つめている。
 太いフレームの奥の瞳が、数メートル離れていても千紗子にははっきりと見えた。

 「雨宮さん…」

 千紗子の唇が彼の名を紡いだ時、雨宮は千紗子から顔を逸らして雑踏の中へ身をひるがえした。

 「待ってっ!」

 千紗子の口から飛び出た言葉は、雨宮に届くはずもない。
 勢いよく鞄を掴んで、千紗子は店を飛び出した。

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