Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
8. すきといえる

 店から飛び出して、雨宮が立っていたところを一目散にめざす。

 千紗子の頭の中は真っ白で、『雨宮に合わす顔がない』とか、『なにを話せばいいのか』とか、そんなことすら頭の中から消え去っていた。

 (いない……)

 さっき彼が立っていた場所で、顔を左右に動かしながら三百六十度見渡すけれど、雨宮の姿はどこにも見当たらない。背の高い彼なら、行き交う人々の間でも見付けることが出来そうなのに。

 暗い空からは、いつの間にかポツリポツリと雨が落ちてきていた。

 (目が合ったのに…私だって分かってて、避けられたの…?)

 最初に逃げ出したのは千紗子の方だ。
 
 彼のところから逃げ出して、電話での会話も拒否し、彼を避けていたのは自分の方だったのに。
 けれどこうして雨宮に避けられたと思った時、千紗子は大きなショックを受けていた。

 (私、なんて自分勝手なんだろう。)
 
 あんなに千紗子を大事に優しく扱ってくれた彼に、自分がどんなに酷いことをしたのかを思うと、心臓を掻きむしりたいほどの痛みが襲う。

 (私はまだ、雨宮さんに何一つ伝えてない…)

 足が勝手に動き出した。

 一歩踏み出した足がすこしずつ早くなる。
 一歩また一歩、千紗子の足は雨宮の姿を探して走り出した。
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