Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「雨宮さん待ってください!」

 千紗子は握っている手にぐっと力を込めて引っ張ると、雨宮は足を止めた。

 「あの、このままだと雨宮さんが風邪を引いてしまいます!」

 「俺なら大丈夫。千紗子こそ風邪を引くぞ。早く帰ろう。」

 雨宮の眼鏡にはいくつもの水滴が着いていて、その向こうの瞳がよく見えない。口元は引き締められたままで、いつもの柔らかさは感じられなかった。

 けれど今の千紗子には雨宮の雰囲気に気を配る余裕はない。
 逸る気持ちを抑えられずに口を開いた。

 「ここっ!」

 「え?」

 「ここからすぐのマンションに今は住んでます。寄ってください。」

 雨宮の目が大きく開かれた。
 立ち止まったままの彼を、今度は千紗子が腕を引いて歩く。
 
 ―――早くしないと、彼が風邪を引いてしまう。

 今の千紗子の頭の中には、その思いだけでいっぱいだった。




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