Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
千紗子が玄関に戻ると、ちょうど一彰が戻ってきたところだった。
「一彰さん、ありがとう。忘れ物はないわ。」
「そうか。じゃあ行こうか。」
玄関にある最後の段ボールを持ち上げようとした一彰は、横からの視線を感じて顔を上げた。
「ん?どうかしたのか?やっぱり忘れ物でも思い出した?」
「えっ!?ううん、大丈夫、なんでもないの。」
千紗子は慌てて首を振ると先に玄関扉を開けて外に出て、扉を押さえたまま、一彰が出るのを待つ。
「ありがとう。」
千紗子は持っていた鍵を鍵穴に入れてくるりと回すと、カチャンという音を立て鍵がかかるのを確認してから、持っていた鍵をドアポストの中へと滑り込ませた。
【ガラン】
鍵がポストの内側に落ちる音が、千紗子の胸の底にぶつかる音のように聞こえる。
(……さようなら、裕也。)
「―――千紗子」
少しの間ドアを見つめていた千紗子だけど、斜め上から届いた低音の声に視線を移す。振り仰ぐとそこには、自分のことを見つめる瞳があった。
千紗子だけに見せる、甘さを含んだその表情に、千紗子は意識して微笑みを向ける。
「行きましょうか、一彰さん。」
何かを振りきったような揺るぎない彼女の表情に、一彰は軽く目を見開いたけれど、すぐに彼女に微笑み返して頷くと、一歩踏み出し、二人で部屋の前を後にした。