Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
スポーツドリンクを半分近く飲んだところで、ふと時間が気になった。随分長い間眠っていた気がする。
『あの…、今って何時ですか?』
『十時だ。』
(二時間くらい眠っていたのかしら…。)
そう考えながらふと目線をずらすと、一彰がゼリーを手に持っているのが視界の端に映る。
(一彰さんのデザートかしら…)
とぼんやり思っていると、
『はい、ちぃ。口開けて。』
『え?』と呟いた隙に、ゼリーの乗ったスプーンを口に突っ込まれた。
『んぐっ、こほこほっ』
びっくりしてゼリーがむせてしまった千紗子の背中を、慌てて一彰がトントンと軽く叩いた。
『大丈夫か、ちぃ?』
コホンと数回咳をしてなんとか落ち着いた千紗子は、首を縦に振り、それからおずおずと口を開いた。
『あの…自分で出来ますから……』
一彰を見るとなんだか困ったような微苦笑を浮かべている。
『俺がちぃの世話を焼きたいんだ。……ダメか?』
じっと彼のことを見ていると、なんだか大型犬が情けなさそうに困っているように見えてきて、千紗子はクスリと小さく笑みこぼれた。
『ちょっと恥ずかしいんですけど、特別に……お願いします。』
千紗子は頬が赤くなるのを感じたけれど、そもそも熱で顔が赤いのできっと気付かれないだろうとたかをくくって顔を上げ、目を閉じ口を開いてゼリーを待った。
けれど唇に感じたのは予期していたスプーンの硬く冷たい感触ではなく、柔らかく温かなものだった。