Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
それはいったい何なのか。
さすがにもう、今の千紗子には分かってしまう。
そっと重なりあったあと、それは名残惜しげに『ちゅっ』と音を立てながら離れていった。
千紗子が瞳を開けると、目の前の一彰が眉を下げて微苦笑を浮かべている。
『ごめん、ちぃがあんまりにも可愛すぎて我慢できなかった。今度はちゃんとゼリーだから。はい。』
怒るにも恥ずかしがるにも、今の千紗子には気力が足りず、(なんだかもういいや)と諦めモードになり、彼の運ぶゼリーを食べることに集中することにした。
食べている間中、ゼリーよりも甘い彼の瞳に見つめられながら。
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(一彰さんは思っていたよりもずっと過保護かもしれないわ…)
助手席から運転する一彰を横目に盗み見ては、数日前のことを思い返しながら、千紗子は心の中で一人ごちる。
ゼリーの後に薬を飲んで眠ってしまった千紗子が次に目を覚ました時、もう日が沈みかける時間だった。
そもそも、一彰が『十時』と言ったのを千紗子は『午後十時』だと勘違いしてしまっていたのだ。とっくに日付が変わっているとは思いもよらず、それが『翌日の午前十時』だと正しく理解していたら、きっと大慌てで仕事に行こうとしていただろう。なぜならその日、千紗子は早番のシフトに入っていたからだ。
もちろんそれを上司の一彰が知らないわけはなく、彼は千紗子が眠っている間に一度出勤して、千紗子の有休届の処理やその他の業務の割り振りをした後、自分も有休申請をしてから帰宅してきたらしい。
『らしい』というのは、目覚めてから一日が終わろうとしていることを知ってひどく慌てた千紗子に、一彰が説明したものだからだ。