Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
そうしているうちにタクシーが停まる。タクシーは千紗子が住むマンションに横付けされていた。
ここまでのタクシー代を、とお財布を出そうとしたがまたしても断られてしまった。
「何から何まですみません。今日は本当にありがとうございました。」
タクシーから降りて窓越しにお礼を言った。
「こちらこそ、楽しかったよ。また金曜日に。」
そう雨宮が言った瞬間、千紗子は閃いた。
思わず「あっ!」と声を上げた彼女に、「どうかしたのか?」と彼が尋ねる。
「せっかくなので栞の原案の入ったUSBを取ってきます!ちょっと待っていてください。」
言うなり踵を返した千紗子は、マンションへと駆け込んで行く。
「木ノ下っ!」
という雨宮の声も届かなかった。
(せっかくここまで送ってくれたんだもの。USBを渡せたら、無駄足にならなくて済むわ。)
我ながら名案だと思いながら急いでエレベーターに乗り、四階の自宅を目指した。