Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 一彰から目を逸らして、まばたきを堪える。そうしないと、熱くなった瞼を落ち着かせることが出来そうにない。

 千紗子の体が、ふわりと温かなものに包まれた。

 「―――千紗子」

 柔らかなバリトンボイスが自分の名を呼ぶ。
 それを耳にした途端、千紗子の喉から熱い何かがせり上がって来た。

 「こっ、こんなふうに、優しくされて、甘やかされて、一彰さんといることが、当たり前になってしまって……、それにズルズルと甘えて、いつのまにか……気付かないうちに、あなたの気持ちが私から離れてしまったら……、そう考えたら、…こ、怖くって…私…」

 千紗子の頬をボロボロと大粒の雫が伝い落ちていく。
 嗚咽を飲みこんで震える小さな体を、一彰はギュッと力強く抱きしめた。

 「そんなこと怖がる必要なんてないんだ、千紗子。」

 ひっくひっくと肩を揺らして泣く千紗子に、一彰は優しく諭すように語りかける。

 「俺の心が君から離れることなんて、これから先、永遠に来ない。―――絶対に。」

 最後の言葉を力強く言い切ると、一彰は大きな溜め息を着く。

 「むしろ、俺の方が千紗子に愛想を尽かされないか心配だ。」

 それまでときおりしゃくりあげていた千紗子の肩が、ピクリと止まる。

 どうして、という千紗子の疑問を感じ取った一彰は、今度は小さく息を吐いて千紗子の髪を優しく撫でた。

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