Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 とりわけ用のナイフや新しいカトラリーを並べると、恵実は一旦厨房に戻ってから新しいワインを持って戻ってきた。
 白ワイングラスをそれぞれの前に置くと、慣れた手つきでワインを注いで行く。

 「お料理もとっても美味しいですし、ワインもお料理と合うものばかりで、ついつい飲みすぎそうです。」

 恵実を見上げて千紗子がそう言うと、ワインを注ぎ終わった恵実が瞳を細めて微笑む。

 「ありがとう。そう言って貰えるとソムリエ冥利に尽きるわ。」

 千紗子が目を開いて驚くと、一彰が横から言葉をかけてくる。

 「恵実さんはソムリエールでもあるんだよ。この店を開くにあたって、彼女は柾さんをフォローする為に色々な資格をとったんだって。」

 「そうだったんですね。」

 『すごい』と尊敬のまなざしを送られた恵実は、少し照れくさそうに笑って

 「そんなかっこいいもんじゃないわよ。色々と手伝ううちに自分が楽しくなって来ちゃってね。一度ハマるとどんどん穴が深くなっていくタイプなだけ。よくやりすぎ、って柾にも叱られるのよ。」

 「うふふ」と笑ってから、恵実は厨房に戻って行った。

 「こんな素敵なお店を夫婦で持つことが出来て、お料理もワインも、本当に美味しくて…私、すっかりアンソリールのファンになってしまったわ。」

 「そう言って貰えると俺も嬉しいよ。ここは予約制のお店だから、また来たくなったらいつでも言って。夜だけじゃなくてランチもやっているし。」

 「ほんとう?じゃあ、また連れてきてね、一彰さん。」

 「ああ、勿論だ。さ、ローストチキンを頂こう。」

 一彰がとりわけ用のナイフとフォークでチキンを切り分け、千紗子の皿の上に置く。

 「ありがとう、一彰さん。」

 それから二人は他愛のない会話と料理を楽しんだ。
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