Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
二人のお腹が満たされ、テーブルの上の皿が空になった時、恵実がやってきて皿を下げはじめると、すぐあとから柾もやってきて、二人の前に一人分づつに切り分けられた可愛らしいブッシュドノエルが置かれた。
「これで俺たちは一旦家に帰るから、お前たちはゆっくりして行っていいぞ。鍵は厨房の入口に置いておくから、鍵を掛けたらドアポストから投げ込んで置いてくれたらいい。」
「ありがとう、柾兄さん。料理、とても美味かったよ。」
「ありがとな。次はちゃんとしたフレンチを食べに来てくれよ。一彰ならいつ来てくれてもいいから。」
「ああ、千紗子とまた来るよ。」
二人の会話が止んだ瞬間、千紗子は思い切って柾を振り仰ぎ、口を開いた。
「あのっ、お料理もワインもとっても美味しかったです。それにお店の雰囲気も素敵で、本当に楽しかったです。また是非食べに来させてください。」
千紗子の言葉に一瞬目を丸くした柾は、すぐに嬉しそうに瞳を細めた。
(あ、一彰さんに似てる……)
笑うと目じりが下がる、その目元が一彰とよく似ていることに、千紗子は今更ながらに気付き、少しの間その顔をじっと見つめてしまっていた。
「ありがとう。一彰が居なくても、いつでもおいで。君にはいつでもご馳走してあげるから。」
そう言い残して、柾と恵実は、店から自宅へと戻って行った。