Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「俺に?」

 目を丸くしながら一彰がそう問うと、千紗子はコクリと頭を縦に振る。
 一彰は彼女の手から深緑の箱を受け取る。

 「ありがとう、千紗子。開けてもいい?」
 
 千紗子がもう一度頭を縦に振ると、一彰は、包みを解いて中を開いた。

 中に入っていたのはソリッドネクタイ。
 それは海の青よりも深く群青よりは明るい、絶妙な青。

 「きれいな青だな。」
 
 「ミッドナイトブルーというらしいの。」

 「なるほど。今夜にピッタリのネクタイだな。」

 そう言うと、一彰は今着けているネクタイをスルリと解いて、千紗子から贈られた新しいネクタイを首に掛ける。

 「締めてくれる?ちぃ。」

 「えっ!?」

 「ちぃが贈ってくれたものだから、最初はちぃに締めて欲しい。」
 
 男性にネクタイを締めてあげたことなどない千紗子は、一彰の要望に戸惑ったが、黙ってじっと待っている一彰に根負けして、椅子から立ち上がった。

 「えっと……」

 座っている一彰の首元に、身を屈ませて手を伸ばした千紗子は、その首からぶら下がっているネクタイを何とか結ぼうとする。

 一見ただの無地に見えるそれは、よく見ると混合色の糸で編まれていて、ストライプになるように織り方を交互に変えてある。
 シンプルな中にある捻りの効いた大人のお洒落感が、一彰の雰囲気と共通しているような気がして、千紗子はそれを選んだのだった。 


 まごまごとネクタイを持て余す千紗子の手に、一彰の手が重なる。

 「ここを、こう通して…そう。ほら、出来た。」
 
 一彰の手に誘導されながら、何とかそのネクタイを締め終えた千紗子が、ホッと息をつく。

 (やっぱり、良く似合ってる。)

 一彰の胸元に治まるミッドナイトブルーに、千紗子が密かに満足していると、額に柔らかな感触が押し当てられた。

 驚いて瞳を持ち上げると、嬉しげに微笑む一彰と目が合う。

 「素敵な贈り物をありがとう。千紗子はセンスがいいな。これからはこのネクタイで仕事に行くことにするよ。」

 一彰は甘く瞳を細めると、今度は千紗子の唇に柔らかな口づけを落とした。

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