Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
何度か唇を持てあそぶように啄ばまれ、うっとりと瞳を閉じていると、おもむろに舌が唇を割って入り、口内を熱い舌で深く掻き回される。
抵抗する隙など一切与えない激しい口づけに翻弄されているうちに、いつのまにか千紗子は一彰の膝の上に横抱きにされていた。
「んんっ、はぁっ、」
熱い口づけに酸素を求めて口を開くが、すぐに唇を塞がれる。
息が上がり、体が熱い。
(まって…ここは…)
朦朧としかけた頭の片隅で、警鐘が鳴る。
いつもこうして、一彰の激しい口づけに流されては、彼の為すがままになってしまう。
それが嫌だというわけではない。問題は、ここが一彰のマンションでも千紗子の部屋でもない、ということだ。
「か、かず…」
息継ぎの合間に彼を止めようとするが、すぐに唇を塞がれてしまう。彼の胸を手で押してみるが、力が抜けかけているせいか、ビクともせず気にも留めて貰えない。
「んんん~~っ、」
千紗子の口を塞いだまま、一彰は背中に回した手で、彼女のワンピースのファスナーを下げようとする。
その音が耳に聞こえた千紗子は、ハッと我に返った。力いっぱい彼の体を両腕で押し返し、一彰から身を離すと、大きく口を開いた。
「一彰っ、ここじゃダメっ!!」
背中の手がピタリと止まる。
長い口づけで息が上がっていたうえに、いきなり大きな声を出したせいで、千紗子の目が酸欠でクラリと回る。
「千紗子っ!」
一彰の胸に額を付けてくったりとなった千紗子に、一彰は慌てた。
「大丈夫か?」
肩を支えられ、心配そうに顔を覗き込まれて、千紗子はまだ整わない息をつきながら、一彰の顔をキッと睨んだ。
「こ、ここは、うちじゃないからっ、これ以上はダメ、なのっ!」
「す…すまない。」
千紗子の剣幕にすっかり萎れた一彰のことを、内心では(ちょっと可愛かも…)などと思いつつも、なんとなくすぐに許してはいけないような気がして、千紗子は息が整うまでの間、黙っていることにした。