Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「ありがとう…一彰さん。」
声を震わせながらお礼を口にした千紗子を、柔らかな温もりが包み込んだ。
「おそろい、だな。」
千紗子を抱きしめながら嬉しげに言う一彰の言葉に、千紗子は首を傾げる。
「首に着ける、青いもの。」
「あっ!」
奇しくも千紗子と一彰が贈り合ったものが、物は違えど、同じ深い青色だった。
「気が合うな、ちぃ。」
すぐ目の前にある自分の贈ったネクタイの青が目に映って、千紗子ははにかみながらも微笑んだ。
「本当はもっと分かりやすいものを贈ろうかとも思ったんだけど、これはこれで良かったな。」
またしても、一彰の口にした言葉の意味がすぐには理解できずに、小首を傾げた千紗子に、彼は抱きしめている腕を少しほどき、すっと彼女の左手をすっと掬い上げる。
そしてその手を千紗子の顔の上まで持ち上げると、薬指にそっと唇を寄せた。
「あっ、」
千紗子は、短い声を上げた。
ようやくその意図を理解した千紗子に、一彰の口の端が少し持ち上がるのが見えたが、彼は千紗子の指から唇を離すどころか、更に吸い付くような口づけを落とした。
薬指の根元に熱と少しの痛みを感じ、千紗子は背中がカーッと熱くなる。
「でもそれだと、今の千紗子は色々と気にして着けたままにしてくれなさそうだしな。どうせなら、いつも着けていてほしいから。」
千紗子の鎖骨の間でキラキラと輝くそれは、小ぶりなので毎日着けていても邪魔にならず、仕事の時でも違和感なく着けたままに出来そうだ。
確かに一彰の言う通り、『いかにも』な指輪を付けて毎日職場に居る勇気は今の千紗子にはない。
『誰から貰った』だの、『誰と結婚するのか』などという追及を上手にかわせるか、そんな自信は無い。そうなると結局職場へは外して行くことになるだろう。
「それは、また別の時にきちんと、な。」
案に『プロポーズ』を匂わせてくる彼に、千紗子の胸がドクンと音を立て跳ねる。
常日頃から、隙あらば『ずっと一緒に』と囁いてくる一彰に、千紗子は頷いているけれど、正式なプロポーズとは別のものだ、と自分に言い聞かせていた。
かと言って、一彰が真剣に千紗子と付き合っていることは疑ったことはなく、いつかそうなればいいな、という想いは千紗子の中に常にある。
大きく見開いた目で一彰を見つめると、星を刷くようにきらめく甘い瞳に見つめ返される。
ゆっくりとまばたきをすると、気付かないうちに潤んでいた瞳からポロリと涙が一滴、こぼれ落ちた。