Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
急に引き寄せられた千紗子は、一瞬何が起こったのか理解出来ずに、一彰の胸の上で黒目がちな瞳を丸く大きく開いている。
一彰はソファーの肘置きに背中を預け、自分の胸の上でうつ伏せになっている彼女の頭のてっぺんに、唇を押し当てた。
花の蜜のような甘い香り。
絹のようにつややかな髪。
折れそうなほど細い体。
手に吸いつくように滑らかで柔らかい肌。
一彰は腕の中に閉じ込めているそれらを、確かめるように目を閉じ、二年前の春を回顧する。
(図書館で初めて千紗子の笑顔を見れたのは、あれから随分経ってからだったな……)
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一か月の新人研修期間が終わり、千紗子は児童書の担当に配置された。
仕事内容は、子ども向けの絵本やヤングアダルト向けの小説などの整理の他に、幼児向けの読み聞かせやイベントも数多くある。
イベントが多いせいか、割と慌ただしい部門だけど、特別不満を表に出すこともなく、彼女は真面目に、けれどやはり硬い表情で仕事に取り組んでいる。その様子を一彰は何気なく観察していた。
そんなある日。たまたま通りかかった一彰の耳に、楽しげな笑い声が飛び込んできた。
小さな子どもと膝を折り曲げてしゃがんだ千紗子が、何かの本を広げて会話をしている。
千紗子はこちらに背を向けているからその顔は見えないが、その隣に立っている子どもは楽しげな声でしゃべっていた。
(あの時みたいだな…)
二人の近くを通り過ぎながら、そんなことを考えていた時、ふと千紗子の横顔が目に入った。
彼女はあの時と同じ柔らかな顔で笑っていたのだ。