Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
それからというもの、一彰は気付くと千紗子の表情を注意深く見るようになっていた。
よく見ていると、あまり笑うことのない彼女は、あまり怒ることもない。
―――というよりも、自分の感情を表情に出すことをあまりしないようだった。
無表情というわけではないが、あまり感情をハッキリと表に出すタイプではないのだろう。
指導員として一緒にいる河崎とは、全く逆のタイプかもしれない。
一彰は新人司書の上司として、彼女を見守っているつもりだった。
業務を直接教えるのは先輩司書の河崎の仕事だけど、それを支える為には上司である自分も気を付けておく必要がある。
なんとなく千紗子に目が言ってしまうのは、いわば上司の仕事だからだと、一彰は考えていたのだ。
けれどある時一彰は、それが純粋に上司としての行動でないことに、うすっらと気が付いてしまったのだ。
それは、一彰が千紗子の上司になって半年ほど経ったころだった。
「えっ、千紗ちゃん、彼氏と同棲してるの!?」
「み、美香さんっ!声!大きいですっ。」
休憩室で昼食を食べていた一彰の耳に、二人の会話がはっきりと届く。
一彰は意識してそちらを見ないように心掛けた。自分は決して彼女たちの会話を盗み聞きしたいとは思っていない。
驚いた声を上げた河崎は、すぐに音量を下げ、二人は顔を寄せ合うようにして話を続けている。
少し離れたところに座る一彰のところまで、もうその会話が届くことはなく、その後はどんな会話が成されたのかは分からなかった。
(そうか…、木ノ下は恋人と同棲中、か。)
心の中でそう唱えると、何故だか胸に引き攣れるような鈍い痛みが走る。
その痛みが何なのか。一彰は無意識にそれを考えないようにした。