Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
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「く、くるしい…」
腕の中で千紗子が上げた声に、一彰はハッとなりその腕を緩めた。
「す、すまない…力を入れ過ぎてた…」
一彰は眉を下げて、千紗子の背中に回した手でその背中を撫でる。
考え事をしているうちにいつの間にか、彼女を抱きしめる腕に力を籠めすぎていたらしい。
やっと緩んだ腕から、息継ぎをするように顔を上げた千紗子が、大きく息を吸っている。
「ほんと、ごめん。大丈夫か?」
もう一度謝ると、千紗子はすうっと息を吸ってゆっくりと吐きだすと、瞳を上げて一彰を見た。
「一彰さんこそ、大丈夫なの?」
「え?」
一彰が目を丸くすると、千紗子は一彰の額にそっと手を当てる。
「う~ん、熱はない…みたいだわ。」
「千紗子?」
「一彰さん……何かあった?」
一彰は目を軽く見張る。
「ここ数日、一彰さんは少し変だわ……。仕事が忙しいのかな、とか思い過ごしかとも、とか思ったんだけど…。もし何か悩みとかあるなら、話して欲しいの。私じゃ相談相手にはならないかもしれないけど…黙って見ているのもやっぱり辛いから……」
千紗子は最後の言葉のところで、一彰を見つめていた瞳を、ふっと逸らした。
「千紗子……」
いつもは千紗子の些細な変化にもすぐに気付く一彰だが、今回は千紗子がそんなふうに思っていることに、全く気付いていなかった。
(気付かれていたなんてな……)
いつもは彼女に『なんでも口にして』と言っているのに、全く同じことで彼女を悩ませてしまったことに、一彰の胸が痛む。
しかも千紗子がそれを言い出せずに悩んでいたことにも、気付かなかったのだ。