Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
(重いよな……)
千紗子の横顔を見ながら、ふと思う。
正直、自分がこんなふうに重たい男だとは思わなかった。
数年前に、付き合っていた恋人と別れてからは、恋愛ごとに時間を割きたい気持ちにならず、一定の相手を作ることはしていなかった。これまで何人かの女性と付き合ってきたが、そのどの女性とも長続きをしたことはなく、一年続けば良い方だった。
こう言ってはなんだが、自分が異性にもてることは分かっている。
自分ではそんなに優れているようには思えないこの容姿も、身長が高いせいなのか、多くの女性達には好ましく映るらしく、外見を見て寄ってくる女性を後を絶たない。
一彰に寄ってくる女性は、大抵は外見目当てだが、高校生のころまではそれに加えて、一彰を取り巻く環境も異性の興味を引く要因の一つだった。
一彰の両親は二人とも、知らない人から見れば華やかな世界に映るところで仕事をしている。
今はそこに妹も加わっているけれど、一彰自身は派手なことは好まず、アウトドアよりも読書が趣味のインドア派。映画を見たりショッピングをするのも好きだけれど、家に籠っているのも嫌いではない。そんな自分が、どちらかというと地味な性格だという自覚があった。
多くの女性達は、一彰の家族のイメージから一彰自身を勝手に想像し、理想の男性を彼の上から重ねたあげく、付き合い始めると、派手な世界に連れて行ってくれるわけでも、華やかな付き合いを提供してくれるわけでもない一彰に、勝手に飽きて勝手に幻滅し、そして勝手に離れて行くのだった。
大学で地元を離れると、家庭環境が原因の色眼鏡で見られることはなくなったが、結局彼の外見から、女性達は派手な付き合いを想像するらしく、一彰がその期待に応えられない分かると、すぐに離れていく。
『雨宮君は、思っていたのと全然違うわね。』
そんな台詞を飽きるほど聞いてきた。
一彰の方も、そんな彼女たちを追って縋るほどの気持ちは持てず、あっさりとうしろ姿を見送ってきたのだ。
社会人になってからは仕事に集中する為に、真面目で堅実な印象を持たれるように外見にも気を配るようにした。
かっちりとしたスーツに、シルバーフレームの眼鏡は、そんな意識の中で選ばれた彼の鎧だった。
結果として、それも『出来る男』として女性たちの目を釘づけにしていることを、彼自身は知らないが。