Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「大丈夫か…」
胃から吐くものが何も無くなって、ひとまず嘔吐が止まった千紗子を、雨宮が支えながらその場に座らせる。
ぐったりと壁にもたれて目を閉じたまま、千紗子は小さく頷く。
雨宮は着ていたコートを素早く脱ぐと、千紗子の肩からそれを掛けた。
「無理を言ってでも、まだ帰すべきではなかった…」
悔いるような彼の独り言を、千紗子は目をつむったまま聞いた。
(私が帰るって、自分で決めたんです。雨宮さんが悔やむことは何もないのに…)
そう思っているけれど、目をつむっていてもぐらぐらと体が揺れているようで、口を開くことすら難しい。
「ちょっと待ってろ。」
雨宮がどこかへ向かう足音だけが、千紗子の揺れる意識の中にかすかに届いていた。
「千紗子。飲めるか?」
その声に薄目を開けると、すぐ側に雨宮の顔がある。
少し気が遠退いていたようで、千紗子は焦点の合わない瞳にぼんやりと雨宮の姿が映る。
千紗子は雨宮に抱きかかえられるように体を預けていた。
「千紗子、飲んで。」
雨宮が千紗子の口元に水の入ったグラスを押し当てるけれど、それを飲む気力すら湧いてこない。
雨宮はおもむろに手に持っていたグラスを自分の口に当て、その中の水をグッと口に含むと、そのまま千紗子の口を覆った。
「ううっ…」
雨宮の口から少しずつ千紗子の中に水が押し込まれる。
いきなり流れ込んだ水を、千紗子は条件反射的に飲みんだ。
「ごほっ、けほけほっ」
飲みこみ切れなかった水にむせた千紗子の背を、雨宮がさすった。