Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「大丈夫か?」

 「雨宮さん…」 

 水を飲んだことで千紗子の意識がハッキリとしてきた。

 「わたし……」

 千紗子の下瞼にみるみる水の膜が張って行く。

 (あんなに大丈夫だって言ったのに、結局こんな有様……)

 自分が情けない。
 思うようにならない体ももどかしくて、千紗子は自分に苛立った。

 千紗子が唇を強く噛みしめた時、雨宮の手が彼女の頬に差し込まれた。

 「また噛んでる。傷になるぞ。」

 優しい指先が千紗子の下唇を窘めるようになぞった。

 「千紗子、ここから絶対に持って行かないと困るものはあるか?」

 脈略のない質問に、千紗子は一瞬きょとんとした。

 「店で買えないような、毎日の通勤に要るものや千紗子の生活に必要なものだ。」
 
 そう捕捉されて、千紗子は素直に考えた。

 (化粧道具一式は昨日のお泊りセットに入ってるし、仕事は制服だから着る物には困らないわよね…)

 「あ、USB……」

 「ああ、そういえば昨夜はそれを取りにきたんだったな…」

 今更ながらその存在を思い出したけれど、確かにあれは明日金曜日には確実に必要な物だった。

 「どこにある?」

 「…リビングのパソコンデスクの上に。」

 「取ってくるから待ってろ。」
 
 そう言うと、雨宮は千紗子の頭を一撫でしてから、リビングの方へ歩いて行った。

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