Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
横抱きにされたまま、来た道を雨宮と戻る。
千紗子を運ぶ雨宮の腕には、彼女の持っていた鞄もしっかりと掛けられている。
黙ったまま駐車場まで戻ってきた雨宮は、器用に車のドアを開けて助手席に千紗子を座らせた。
運転席に乗り込んだ雨宮が黙ってエンジンを掛ける。
この時になって初めて、千紗子は自分がこれからどこに連れて行かれるのか疑問に思った。
「体調はどうだ?まだ辛いか?」
車を動かさずにエンジンを掛けたまま雨宮が聞いてきた。
車のエアコンから温かな風が吹き出して、千紗子の体を温める。
「…大分いいです。すみませんでした、結局雨宮さんにご迷惑を、」
「そんなことはいい。ゆうべあんなに苦しんでいた千紗子を見ていたのに、安易にここに帰した俺も迂闊だった。」
「そんな…雨宮さんは悪くありません。全部私のことですから…」
「千紗子のことだから、だぞ。」
「雨宮さん…。」
雨宮にじっと見つめらて、千紗子は何も言うことが出来なくなる。
「千紗子が大丈夫なら、少し寄り道をして帰ろう。」
『帰る』と言ったその場所がどこなのか、聞かなくても分かる。
「寄り道…」
「ああ。具合が悪くなったらすぐに言えよ。」
そう言うと、雨宮には車を発進させた。