命の記憶
　文化祭は思っていたより賑わっていて、登ってくる人をなんとか避けながら歩く。


　前を歩く桃子とはぐれないように追いかけているうちにいつのまにかお目当のクラスの前まで来ていた。


　クラスの前にある手作りのメニューを見て何を買うか悩んでいると、隣の桃子が別の場所を見つめていた。


「あ、いた……」


　桃子がそう小さく呟く。


　桃子の目線の先を見たとき、私はその言葉の意味を一瞬で理解した。


「こうちゃん……っ！」


　私は桃子が見つめている男の人のところに駆けていった。


「こうちゃん！」


　今度は近くで聞こえるように声をかける。


　すると、その男の人がこっちを見た。


「ひ、久しぶり。あの、私のこと、覚えてる？」


　ぎこちない声で目も合わせられずに言った。


「ごめん、誰？」


　え──


　声変わりして、低くて男っぽくなった声でそう言われた。


「え、あー……」


　それ以上何も喋れなくなる。


　どうしよう。
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