命の記憶
 たまにこういうことがあるのだ。


 急に上司から電話がかかってきて、休日でもすぐに家を飛び出してしまう。


 お母さんが仕事の間、私はお母さんの家で1人きり。


 いつもとは違う家で1人、不安に思いながらお母さんの帰りを待っていた。


 でも──


「逆上がり、一緒にやろう」


 今はそう声をかけてくれる友達がいる。


 今日は1人じゃない。


「うん!」


 満面の笑みでそう答え、2人で逆上がりの練習をした。


 その子の逆上がりは何度見ても綺麗だった。


 その子?


 そういえば、名前──


「名前、なんていうの?」


 そう言ったのはその子の方だった。


「わ、私は鈴木 琴音(すずき ことね)。小学4年生だよ」


「俺も小4。名前は佐々木 幸介(ささき こうすけ)、みんなからはこうちゃんって呼ばれてるから、そう呼んで」
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