命の記憶
 こうちゃん。


 心の中でそう言ってみる。


「こうちゃん」


 今度は口にもしっかりだす。


「私は特に呼び方とかないから、なんでもいいよ」


「じゃあことねって呼ぶ」


 男の子に下の名前で呼ばれるのは初めてのことで少しびっくりしたが、なんとなく嫌な感じはしなかった。


 というか、むしろ嬉しい。


 知らない街で新しい友達が出来たこと、お母さんに会うこと以外にここに来る理由が出来たこと。


 またここに来たらこうちゃんに会えるのかな?


「ことね?」


 不意に名前を呼ばれ、体がビクッとした。


「逆上がり、やろ?」


「う、うん!」


 1人で色々と考えていたのが恥ずかしくなった。


 今は逆上がりを成功させることだけを考えよう。


「腕をもっとこう……足もこうして……」


 私の逆上がりを見ながらアドバイスをくれる。
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