命の記憶
 やっとお母さんがドアに手をかけ、その先が見えた。

 椅子に腰をかけていた男性がそそくさと立ち上がる。

「はじめまして」

 懐かしく感じられるくらい優しい声。

 背はお母さんよりも随分高いが、体型は結構細め。

 少し微笑んだ顔はさっきの声に似合っていると思う。

「ことね、お母さんね、この人と再婚しようと思うんだけど.......ことねはどう?」

「そっか、いいと思うよ」

 そんなに私に意見を求めるように言われても.......

 お母さんの再婚する相手だ。

 私が意見することではない。

「でもほら、ことねのお父さんになる人だし」

「あ.......」

 そっか、お父さん、か.......
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