命の記憶
 お母さんが離婚したのは私が幼稚園生の頃だ。

 正直私にはお父さんとの記憶が無いので、新しくお父さんができる実感もなければ想像もつかない。

「ほら、座ろ! 今お茶出すね」

 私の微妙な雰囲気を悟ったのか、お母さんが私たちを座らせ、お茶を準備しにキッチンに向かった。

「ことねちゃん?」

「あ、はいっ」

 名前を呼ばれ、初めて目を合わせた。

 メガネの奥の目はやっぱり優しそうだ。

 この人が、私のお父さん.......

「はじめまして。
僕のことで知りたいことがあったらなんでも聞いてください。
僕はことねちゃんのお父さんになりたいので、よろしくお願いします」

 礼儀の正しい人だと思った。

 なんでも聞いてと言われた通り、まず1番に思ったことを聞くことにした。

「お母さんと、結婚するんですか?」
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