命の記憶
「え、いや、その違くて。ご、ごめ──」

 突然の涙を隠しきれず、こうちゃんになんとか言い訳をしようと考える。

「こっち、きて」

 こうちゃんがそう言うのと同時に、私の手を取り早足に歩き出した。

 こうちゃんの手は昔よりも大きくて、今の私にはとても暖かかった。

 私が連れて行かれた場所は体育館の裏と思われる、人の少ない場所だった。

「ちょ、ちょっと待ってて」

 慌てた声で言われ、私は近くのベンチに座った。

 こうちゃんに迷惑をかけてしまった。

 知らない女の子に泣かれてきっと嫌な思いをしているだろうな……

 せっかく履いてきたスカートに、涙の模様が1つ、また1つと増えていった。

「あの、ごめん。ほんと、泣かないで」

 どこに行っていたのか、いつのまにか戻ってきたこうちゃんに言われる。

 顔を上げると、こうちゃんが手に2つのペットボトルを持っていて──
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