命の記憶
「はいこれ。何が好きかわからなかったから俺の好きなやつだけど……飲める?」

 ゆっくりと差し出されたのは、小さめのりんごジュース。

 急に人前で泣き出した私をわざわざ人がいないところに連れてきてくれて、飲み物も買ってくれた。

 困っておどおどしている姿も昔のまんまで。

 私のことは忘れてしまったのかもしれないけれど、昔と何も変わっていなくて安心した。

 気がつけば涙も止まっていた。

「ありがとう」

 笑顔でそう言う私に安心したのか、こうちゃんの雰囲気が少し柔らかくなった。

 だがこうちゃんはその場で立ったまま。

 何か、話した方がいいのかな。

 静かな場所で2人きり。

 もらったりんごジュースを両方の手で転がしながら考える。

「連絡先、交換しませんか?」

 頭で色々考えていたはずなのに、気づけばそんなことを口に出してしまっていた。
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