俺たちは夜に舞う蝶らしい
その時、とてとてと小さな足音を立てて階段から降りてきた澪がまだ眠そうに目をこすりながら顔をのぞかせた。
「蘭ちゃんかえりゅの?」
「うん。ちょっと用事ができたんだ。」
寝起きで舌が回っていない澪は子どもらしいふにゃっとした笑みをみせる。
それだけで、今まで流れていた重い空気が消える。
蘭音もふわっといつも以上の優しい笑みで足元に寄ってきた澪をだっこする。
「また来るからね。
今日はもう寝てな。」
「ぜったいだよ?」
だっこされながら、不安げに小指を蘭音に突き出す澪に、蘭音は再び優しく笑い器用に片手で澪を支えて小指を差し出し指切りをする。
「きをつけてね。」
「うん。ありがとう。」
そう言うとそっと澪を下ろした蘭音。
澪もそれ以上、せがむことなく大人しく階段をのぼっていく。
「やっぱり、何かしら気がついてますねぇ。」
『ふっ。俺の息子だからな。』
「変なとこ似ましたねー。」
クスクスと笑う蘭音はもういつも通りで、俺もいつも通りになっていた。
蘭音が家を出る時。
蘭音の持つカバンから、微かに鈴の音がした。
俺は軽くため息をつきながら、思う。
〝あの鈴の音を
直に聞く日がこないことを願う〟
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥と。