24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
(あぁ、こんなこともあったっけ……。だから、振られたのかな)
伊鈴は、拓也に帰したくないと言われた夜のことを思い出した。
翌日は休みだったにもかかわらず、帰ると決めていたから、誘いを断ったのだ。思い返せば、あの頃から少しずつ二人の間には亀裂が入っていたのかもしれない。
そんなことで別れ話に発展するなんて、と思うけれど、引き金がなんだったかなんてどんどん見えなくなっていくんだろう。
あの時と同じ失敗はしない。
隣を行く立花が、どんな気持ちでいるのかはわからないけれど、いつか今日を思い出した時に後悔するような1日にはしたくない。
「あれ? 雨……止んじゃったね」
パーキングに到着したところで、昨夜から街を濡らしていた雨が、唐突に終わりを突きつけた。
「帰ろうか」
「……はい」
伊鈴が素直に返事をすると、立花が和やかな笑みを返す。
これが、現実。
特別な時間は、ここまでと彼が線を引いたのだから。
どんよりとしていた空を見上げれば、月の光が雫を纏って輝いていた。