24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
社を出たのは、19時過ぎ。
先週よりも秋が進み、虎ノ門の街に枯葉が舞うようになった。
伊鈴は慌ただしくメトロの階段を駆け下り、ロイヤルブルーのストールをなびかせながら、ホームで電車を待つ。
一駅分の距離が、こんなにもどかしく思ったことはない。
手の甲に残っていたキスの感触も、2日も経てば薄くなり、4日目には白檀の香りが愛しくなった。
なんの約束もしていないし、連絡先が載った名刺をもらっていたけれど、電話をしていいのかもわからなかった。
衝動に駆られ、突き動かされるような恋をしたことがなく、要領の悪さが露呈する。
それでも、どうしても会いたくてたまらない。
突然会いに行ったら迷惑がられないとも限らないけれど、もう気持ちを抑えられないのだ。
銀座に到着した電車から、気持ちに急かされるように降りて、足早にホームを歩き、地上に出る。
(今夜も人が多いなぁ)
先週と同じように、人混みの中を行く。
今日は足取り軽く、居場所を探すのに迷ったりしない。
抹茶色の暖簾が掛けられた、歴史ある老舗和菓子店へとまっすぐに足を向けた。