24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~

「……こんばんは」

 引き戸をそっと開け、顔を覗かせる。

 ショーケースの向こうに、立花の姿を探すが見当たらない。
 和装の制服を着た店員が数人、にこやかに出迎えてくれただけだ。


「まだ大丈夫ですか?」
「お持ち帰りでしたら可能です」

 腕時計を見れば、19時半を回っている。イートインスペースにはまだ客がいるようだけど、これから利用するのは無理なのだろう。


「では、持ち帰りで、北海道小豆のおはぎと極上カステラを二つずつお願いします」

(今日は、お店にいないのかな……)

 店の片隅で、店員が商品を準備する背中を見つめながら、小さくため息をひとつ。
 勢い半ばでやってきた分、しゅんと萎れるのもまた早い。

(もうちょっと早く来たらよかったのかな。明日来たら、会える?)

 電話をして、会いたいと言えばいいのに、それができないのは、まだ片想いをしていたいから。
 ここで出会ったあの夜のように、もう1度繰り返したいのだ。

 あの、甘酸っぱい時間を。

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