24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~

 そのうち、由紀が拓也から自分との過去を聞かされるかもしれない。その前に打ち明けたほうがいいのは分かっている。

(でも……こんなに幸せそう。誕生日につらい思いをするのは、私だけでいいかな)

 複雑な想いを抱えながら、由紀の惚気を聞いていたら、あっという間に昼休憩が終わった。



 夕方になり、秋の日暮れが近付いてきた。

 虎ノ門にある製菓材料メーカー『ESFOODS(エスフーズ)』の国内営業部で、伊鈴は勤務している。
 主に、各取引先への納品や新作の紹介、新規顧客の開拓を担当し、その取引先の中でもとりわけ大口なのが恋人の拓也がいる企業だ。

 交際を知られたところで、数年前からの企業同士の繋がりに影響はないと思うが、万が一を考えると公表しないのが得策だった。

 ところが、今はどうだろう。
 由紀は関係を打ち明けたではないか。

(結婚前提だなんて、私には言ってくれなかったのに)

 ブラインドタッチで、パソコンのキーボードを打つ。カタカタと響く音に紛れ込んだ苛立ちは最高潮だ。

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