24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
途中の赤信号を並んで待つ。まだ空は重いが、雨雲は遠ざかったように感じる。
「もう帰りますか?」
「どうするか考えてました」
問いかけに答えながら伊鈴が見上げると、背中に黒髪が流れ、立花は彼女を見つめ返す。
(このまま帰したところで、気になって仕方ないだろうなぁ。それに、なんだか放っておけないし……)
少しでも沈黙が続くと、伊鈴がまた泣いてしまうのではないかと気にかかる。
店で出会った初対面の女性なのに、あまりにも儚い涙を見たせいだろうか。
「無理にお誘いはしませんが、あなたさえよければ、ご一緒しましょうか?」
立花が二軒目に誘ってくるとは思いもせず、伊鈴はいささか驚いた。
失恋した当日の夜に、他の男性とふたりきりでいるのが後ろめたいのだ。
(でも、まっすぐ帰るつもりもないし、ひとりで飲んだら泣くだろうし……)
この時間から飲みに出るとなれば、確実に終電コースだろう。
最悪、タクシーで帰ればいいかと考えたが、どう考えても立花と飲み歩くのは気が進まない。