24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
さっきまでは、ほんの少し明るい気持ちだった。新しい明日や捨てきれない今日までのどちらからも目を背けていられたからだ。
それほどに、立花と過ごした時間は非日常的で、穏やかだった。
階段を一段下りるたび、また暗く切なく、悲しみに満ちた心に飲み込まれる感覚がして、伊鈴はふと足を止める。
そして、ゆっくり息を吐き出して、できるだけなにも考えずにまた歩を進めた。
「十河さん!」
まっすぐ続く階段の踊り場に着いたところで声をかけられて驚き、勢いそのままに顔を上げて振り返る。
すると、もういないだろうと思っていた立花が、番傘を差して立っていた。
(あ、また雨が降ってきたんだ……)
鼻で呼吸すると、わずかに立ち込める土の匂いを感じる。そして、数秒と待たずに、雨粒の音がしっかり聞こえるようになってきた。