24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
「――」
立花がなにか話している。
しかし、地上を行き交う車が濡れた路面を掻き分ける音で、耳が塞がれる。
伊鈴が階段を上ろうとすると、手早く番傘を閉じた立花がすぐに褄を取って階段を下りてきた。
「外の音でよく聞こえなかったんですけど……どうされたんですか?」
小首を傾げて問いかけ、長身の立花を見上げれば、立花も同じようにまっすぐ見つめ返してくる。
少し乱れた前髪が精悍な瞳にかかり、隙間から覗く強い視線に眩暈がしそうだ。
「帰したくないんです」
思っていた以上にストレートな物言いをした自分に、立花は驚いた。
そして、帰したくないと言ったのは勢いではなく、それこそが本心なのだと気づいた。
(……どうしてそんなことを言うの?)
伊鈴は、出会ったばかりの自分に、こんなに熱っぽい視線を向け、引き留める立花の心を知る由もない。