24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
月の雫
九時過ぎにホテルを出た。
立花は、昨夜コンシェルジュに預けていた番傘を片手に、伊鈴の一歩前を行く。
「朝食の前に、車を取りに行ってもいい?」
「……はい」
正面の車寄せに並んでいたタクシーに乗り込むと、立花は「銀座七丁目の立花ビルまで」と告げた。
これからデートをするという現状は、まだ受け入れきれていない。
部屋を出るまでに、何度か他に案はないか聞いたけれど、「交換条件だから」と返されるだけだった。
それに、昨夜の一件で、十分すぎるほど気を使わせてしまったので、宿泊した部屋の料金を払いたいともう一度申し出たら、1泊約10万円と言われて諦めるほかなかった。
「立花さん、どうしてあんな豪華な部屋に泊まったんですか?」
「空いてる部屋で、それなりの広さがあるところを選んだら、そこしかなかったんだから仕方ないよ」
(だからって、スイートに泊まるなんて……)
酔ってしまった私は放っておいてくれてもよかったのにと思いつつ、立花の優しさにまたしても頭が下がる思いだ。