天満つる明けの明星を君に【完】
何かが腕の中でもそりと動いた。

寝ぼけながらうっすら目を開けた天満は――腕の中で眠っている雛菊の寝顔を見てぎょっとして一瞬で目が覚めた。

状況を把握するため辺りを見回すと、どうやらあのまま居間で眠ってしまったらしく、雛菊が掛布団をかけてくれていたが…外はもう朝だった。


「朝…」


…それよりも何故雛菊と一緒に寝ているのだろうか?

完全に熟睡していて、寝顔があまりにも可愛らしくてつい飽きもせず見つめているうちに二度寝してしまいそうになり、一度ぎゅうっと抱きしめた後身体を起こして、掛布団をしっかり雛菊に巻き付けた。


「さてと…役所に行かないと」


雛菊を戸籍から抜く手続きを取らなければならない。

この鬼陸奥の住人は、駿河の悪行を知っている節があった。

それならば話は早いが…骸がないため時間を要するかもしれない。


――天満は机に向かい、朔に文を書いた。

もしてこずるようなら手を貸してほしいと書き、鳥型に折ると、庭に出て鳥型にした文に息を吹きかけた。


「さあ、行っておいで」


まるで本物の鳥のように空に飛び立ったのを見送った天満は、縁側に放り出していた二振りの刀を手にそのまま朝の鍛錬を行った。

…昨日は乱戦になり、久々に血沸き肉躍っている自身を感じていた。

刀を握るとまるで人格が変わっているかのようだとよく兄弟たちに言われてきたが…それは否定できない。


「性根の弱い僕でも鬼頭の者ということかな」


刀を振る度に頭がすっきり冴えてくる。

珍しく晴れた大空の下、鍛錬を続けているうちに雛菊が目覚めて縁側に座ると、じっとそれを見ていた。


今日は、何かが変わる日になるかもしれない。


ふたりとも、そう感じていた。
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