天満つる明けの明星を君に【完】

一心同体

だが――屋敷に戻ると雛菊は客間に籠もってしまい、謝ることすら許されなかった。

それでますます怖じ気づいた天満は、縁側で静かに本を読んでいた朔に詰め寄ってその肩をゆさゆさ揺らした。


「さ、朔兄…雛ちゃんが会ってくれないんですけど…」


「狼狽えるな。どうしてお前はすぐ動揺してどんと構えていられないんだ？」


「そ、そんなこと言ったって…僕は知らないことが多すぎて…雛ちゃんに嫌われたくないんです。だから朔兄が考えてくれた策はなかったことに…」


「今夜まで待ってみろ。それで駄目だったら謝るなり何なりすればいい」


若干突き放されてさらに無言でゆさゆさしていると、まだ滞在していた息吹が手作りの団子と熱い茶を持って天満の隣に座った。


「ねえ天ちゃん。雛ちゃんといい仲なの？」


「は…っ、あ、いえ…いえじゃなくって…そのはずなんですけど…ちょっと色々あるんです。色々整ってからちゃんと話します」


「天ちゃんはできる子なんだから、しなくていい心配とかやめた方がいいよ。朔ちゃんも天ちゃんも十六夜さんの子なんだから、女の子に袖にされるなんてこと絶対ないんだからね。…でも十六夜さんに似て女遊びばかりしちゃ駄目だよ？」


――子煩悩丸出し。

だが鬼頭の遺伝子が最強で強烈なのも我が身を以て知っている天満は、口角を上げて無言で笑っている朔の両頬をむにっと引っ張って絡んだ。


「わーらーわーなーいーでー！」


「いつまでもいじいじしてるお前が悪い。女の顔色ばかり窺って自分を見失うな。お前は俺の弟なんだから、堂々としていればいいんだ」


「…母様も朔兄も、僕のこと買い被りすぎなんじゃ？」


「そんなことはない。とにかく今夜まで待て。きっと状況が変わる」


「…はあい」


「声が小さい」


「はい！」


縁側で座禅を組んで、瞑想した。

自分を見失わないように自身を見直して、集中し続けた。
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