天満つる明けの明星を君に【完】
夜が近付くと、百鬼夜行に出向くため続々と百鬼たちが集結し始めた。

それはいつもの光景で、こんなに大勢の妖を束ねている朔はやっぱりすごいなと兄自慢なら一日中できる自信のある天満は彼らを眺めていた。


「天満様」


「あ、毛倡妓…こんばんは」


「月夜の美しい夜ですね。主さまもあなた様も輝いていらして…」


普段は長い髪で顔を隠していることの多い毛倡妓は髪をひとつに束ねて美しい顔を晒していた。

その美しい顔で男を誑かしては惑わせるほどの美貌においても、天満は惑わされない。

何故ならば、自分の家族より美しい者たちは存在しないのだ。


「寒いから空気が澄んでて絶好の百鬼夜行日和だよ」


女の百鬼たちが仲良さげに話しているふたりを羨ましそうに見ていたが、天満の性格を知っているため、なかなか近付けない。

そのうちふたりで縁側に腰かけて話していると、雪男がそっと酒を脇に置いてその場から離れた。

妙なお膳立てをされて困っていると――毛倡妓がそっと縁側についていた手の甲に触れてきた。


「天満様…よろしければ後日ふたりでゆっくりお話をして頂けませんか?」


「毛倡妓…僕は…」


浮かんだのは、雛菊の笑顔だった。

…最近あまり見ないその笑顔が大好きで、笑い、笑わせながら日々を過ごしていきたいのに――それが叶わずやきもきしている状況を打破したい天満が断ろうと口を開きかけた時――


「天満様」


「!?雛ちゃん?」


「…ちょっと来て」


想像できないほどの強い力で袖を引っ張られて立ち上がった天満は、そのまま引きずられるようにして毛倡妓から離れさせられた。


「毛倡妓っ、また後で!」


「…後はないの」


「え?」


ぼそりと呟いた雛菊の背中は相変わらず怒っている。

天満は引きずられるようにして廊下を歩きながら、目を白黒させていた。
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