天満つる明けの明星を君に【完】
――雛菊の激しさにただただ圧倒されていた。

物静かで可憐でふんわりしていて…

かしましくてぎらぎらしている女が苦手で、理想的な女の子の塊だと思っていた雛菊が実は――


「…じゃあ私のせいっていうことなんですね?」


「い、いや、雛ちゃんのせいじゃなくて…発破をかければ少しは状況が変わるかなって…」


「確かに天満様を拒絶しちゃってあれから気まずかったですけど、あなたもあれから触ってこなかったし、私も怖かった。だからって…他の女と仲良くして見せつける必要あります?主さまも天満様も…馬鹿じゃないの!?」


…怒りは冷めやらず。

雛菊の意外な一面を見た天満は、それでも一切幻滅はしなかった。

むしろその一面を見れたことで、雛菊もれっきとした鬼族の女であり、怒りや嫉妬を炸裂させている様に笑みが沸きそうになって、慌てて表情を引き締めた。


「なににやにやしてるの?私が怒ってるのがおかしい!?」


「いや、そうじゃないよ。…僕は雛ちゃんのこと、今でもすごく好きだよ」


「!………それで?」


「でもこのままお互い触れ合わず一緒に居るだけっていうのは…なんていうか…蛇の生殺し?いや違うな…僕たち鬼族には病があるよね。それに罹ると命を落とす。僕は…それに罹りそうだったんだ」


――恋の病。

惚れた相手ができるとその身を焼き尽くさん勢いで求めてしまうため、恋の成就が叶わなかった場合命を落とす場合がある。

天満は普段温厚で声を荒げたりしないため分かりにくいが…それでも流れている血の半分は鬼。

自分も激しい一面を備えているのだと暗に訴えた天満の告白に、雛菊の勢いは徐々に萎んでいき、正座した膝の上で真っ白になっていた拳は徐々に普段の色に戻っていった。


試されていたことにまだ怒りは感じていたが――

そっと手を伸ばして手を握ってきた天満の手は温かく、振り払えずにその透明な美貌を見つめた。
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