天満つる明けの明星を君に【完】
大体からして、こんなに美しくて強い男が自分を好きだなんておかしい話だった。

大して美人でもなければ夫の居た身で天満に懸想して、絶対に絶対に実らない恋だと思っていたからこそ、両想いだと知った時の喜びは言葉にできないほどのものだったのに。


「…天満様は、私のどこが好き?」


「えっ?えっと…すごく昔の話をするよ。雛ちゃんがはじめてうちに来た時、なんていうか…普通に話せたことがまず驚きだったんだ。あと名を呼ばれた時も普通じゃない感覚がして、この女の子は何か特別な子なんじゃないかって思った」


「…」


「所帯を持ったって聞いた時は素直に祝福してたよ。僕はほら、こんなだから所帯を持つことなんて諦めてたし。でも…雛ちゃんが朔兄に文を出したことがきっかけで、僕は雛ちゃんと再会できた。すっごく可愛くなっててびっくりしたよ」


「…嘘。きれいな女の方なんて天満様の周りにごろごろ居るでしょ」


「ごろごろ居るけど、みんなぎらぎらしてて、目も合わせることができなかったよ。あと嘘じゃない。ここ重要だからね」


互いに正座して膝を突き合わせて、まるで討論しているかのような光景になっていた。

天満の必死さは語っている内容が真実という証拠であり、今まで自分に自信がなくて、それ故に天満が女と楽しげに話しているのを見て気が気でなくなり、そしてはじめて――内に潜む激しい嫉妬の炎を感じた。


「私…今…天満様が思い描いてたような女じゃないでしょ?それこそ今幻滅したんじゃない?」


「まさか。でも雛ちゃんにこんな激しい一面があるなんてびっくりしたよ」


顔が熱くなって、真っ赤になっているのを感じた雛菊は、勢い余ってどんと天満の肩を突いた。


「私だって鬼族の女だもの!でも…私も知らなかった…。こんなに荒ぶるなんて…恥ずかしい…」


「でも僕だって雛ちゃんが朔兄とひそひそ話してるのを見たりしてもやもやはしてたよ。雛ちゃんは元々朔兄のお嫁さん候補だったから、まさか…ってね」


「ち、違うもん!天馬様が主さまに私たちのこと話してないって聞いて、私がどれだけ絶望したか…」


――想像以上に雛菊を傷つけていた。

我が身の至らなさに激しく反省した天満は、雛菊をそっと抱き寄せて膝に乗せた。


「雛ちゃん…試してもいい?」


「な…何を?」


雛菊の目が大きくなり、天満はふわっと微笑んだ。
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