天満つる明けの明星を君に【完】
天満は雛菊の目を見たまま、桃色の帯に手をかけた。

何を試したいのかそれで全て分かった雛菊だったが――

今は好きだと言ってくれても、心も身体もひとつにならなければ…いずれ離れて行ってしまうかもしれない。


今ここで――がんじがらめにして、夢中にさせることができなければ…


「私を…抱くの?ここで?」


「ここは僕の部屋で、誰にも邪魔されない場所だ。雛ちゃん…拒絶されたっていい。ただ僕が君をどれだけ好…いや、愛しているか、分かってほしいから」


「愛…」


好きの最上級の言葉。

駿河にその言葉を贈ってもらっても、それを返すことができなかった。

心から好いてあげることができずに暴走した元夫を一瞬想った雛菊だったが、天満に唇を塞がれて、もうどうでもよくなった。


「ここで…私をあなたのものに。あなたを私のものにして下さい」


「喜んで」


――本当は互いに口から心臓が飛び出そうだったが、天満はぎこちない動作で帯を外して着物を脱がしつつ、目を逸らさなかった。


「緊張してる?」


「うん…。天満様は?」


「してるよ。雛ちゃんの倍の倍の倍はしてるよ」


「はじめてを私に捧げてくれるんでしょ?私でいいの?」


「雛ちゃんしか居ない。だから雛ちゃんの中で、僕もそういう存在で在りたい」


天満の目の中に、妖気の結晶がきらきらと輝いていた。

この男を自分のものにしない限りは、一切の油断をすることはできない。

でなければ、また先程のような光景を目にした場合…天満か、その女を殺してしまうかもしれないから。


「はじめてだから不器用だけど、そこは見逃して」


「ふふ…うん、きて」


雛菊に覆い被さり、その首筋に顔を埋めた。
< 169 / 292 >

この作品をシェア

pagetop