天満つる明けの明星を君に【完】
母が多く居る兄弟の全員を‟ちゃん”付けで呼ぶため、天満もその癖が移っていて思わず雛ちゃんと口走ってしまったが、雛菊は頓着なく頷いて頭を下げた。


「次期当主様と…天満様?とお呼びしてもよろしいですか?」


――慣例として次期当主の男子…この場合は朔だが、真名で呼ぶことは避けられていて暗黙の了解だった。

天満には通り名があったが別に真名で呼ばれても不快には思わないため雛菊に明かしたのだが…

真名を呼ばれた時少しぞわぞわする感覚がして、ぶるっと身震いした。


「天満?」


「なんでもありません…多分。雛ちゃんは何をしに来たんですか?」


「分かりません。ついて来いと言われて田舎から出てきたのですが…大きな町でびっくりしました」


「でしょ?僕たちの父様がお守りしている町なんですよ」


女子と珍しく饒舌に話をしている天満が意外だった朔が視線を感じて居間の方を見ると、父たちがこちらを見ていて目が合うとふいっと顔を逸らした。


…これは何か意図がある。

聡い朔はすぐそう感じたのだが、女子とはまともに会話もできない天満が雛菊とは普通に話せている姿を見て、そっとふたりから離れた。


そして今に歩み寄ると――何故か父たちは焦りながら茶を口に運んでいて、そこでぴんときた。


「父様…俺に会わせに来たんですね?」


「…いや、そういうわけでは…」


「会わせに、来たんですよね?」


朔の有無を言わさぬ迫力に屈した父の十六夜は、雛菊の父と顔を見合わせてため息をついた。


「すまない、お前に言うと断られると思って…」


「当然です。やっぱり縁談だったんですね…。ちなみに俺はお断りしますけど、天満はどうかな」


――十六夜もまた天満が女子と仲良く話をしている姿をはじめて見て目を丸くしていた。

それほどに、珍しい光景だった。
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